大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(借チ)3号 決定

〔主文〕1 別紙記載の借地条件を堅固な建物所有の目的に、借地期間を本裁判確定の月の翌月から三〇年に、賃料を本裁判確定の月の翌月から一か月金五一、七五〇円にそれぞれ変更する。

2 申立人は相手方に対し金一八、一一二、〇〇〇円を支払え。

〔理由〕一 本件申立の要旨

1 松信工業株式会社は、昭和一八年一月一日相手方先代宮嶋勝太郎から別紙記載の土地(以下「本件土地」という。)を昭和四八年一月一日までの約で賃借し、右松信工業株式会社は、昭和二二年一一月本件土地の賃借権を横井英樹に譲渡し、更に、横井英樹はこれを申立人に現物出資し、右各譲渡につき宮嶋勝太郎の承諾をえた。

2 その後相手方が本件土地の所有者となり右賃貸人たる地位を承継し、申立人相手方間の本件土地の賃貸借契約の内容は別紙記載のとおりである。

3 申立人は本件土地のうえに木造、板葺平家建物置33.05平方米(登記簿上)、42.97平方米(実測)を所有している。

4 ところで、本件土地を含む一帯は、申立人が賃借した当時から木造工場用地および住宅等の用途に利用してきたが、その後本件土地附近一帯は、準防火地域、準工業地域に指定され、商工業その他営業用の土地として高度に利用され、事情の変更により、堅固な建物の所有を目的とするのが相当であるに至つた。

そこで、申立人は、本件を含む土地上に鉄骨鉄筋コンクリート造のビルデイングを建築し、これを本件土地附近に存する申立人が所有し、東洋郵船株式会社に賃貸中の遊技場(ボーリング場)のための駐車場および附属物置として利用するため、借地条件の変更につき相手方の承諾を求めたが、協議が整わないので、借地条件変更の裁判を求める。

二 当裁判所の判断

1 本件で取調べた資料によれば、前記一の1の事実のほか、本件土地は、もと宮嶋勝太郎の所有であつたが、同人は昭和二五年七月一日死亡し、その相続人である相手方、宮嶋美代子、清水艶子がこれを相続し、更に清水艶子の持分を清水不美男ほか三名に移転したが、昭和四三年七月一日遺産分割の協議により相手方以外の共有者が各持分を相手方に移転(同年一二月一六日登記)し、各本件土地の賃貸人たる地位を承継し、相手方申立人間の本件土地の賃貸借契約の内容は別紙記載のとおりであることの各事実を認めることができる。

ところで、前記資料によれば、本件土地賃貸借契約が締結された昭和一八年当時において本件土地附近において非堅固建物所有の目的とする賃貸借契約が通例であつたと推認しうるが、現在本件土地附近は準防火地域、準工業地域に指定されたほか、一部は第五種容積地区、一部は第二種容積地区に指定され、建物の堅固化、土地の高度利用が期待されており、なお木造建物も少くないが、しだいに堅固な建物が増大しつつあり、この傾向は今後も一層増大するものとみられ、本件土地は、現に借地権を設定する場合には堅固な建物所有を目的とするのが相当とされるに至つたと認めることができる。

相手方は、前記の存続期間の満了に当つては、更新を拒絶して本件土地の明渡を求める予定であると主張する。本件におけるごとく残存期間が短く、右満了時における更新拒絶につき正当事由がそなわる可能性が存する場合には、条件変更を許すべきでないが、前記資料によれば、相手方はその住居地において店舗をもつて酒類等の販売を営むものであるが、本件土地以外にも数多くの土地を所有し、本件土地附近にも現況畑になつている土地を有するものであつて、本件土地を自ら使用する必要性に乏しく、申立人が本件土地をもつぱら営業用として使用することを考慮しても、右満了時に、正当事由が存する可能性は少い。その他、前記借地条件の変更を不相当とする事情は認められないので、本件申立はこれを認容すべきである。

2 附随の処分につき検討する。

(一) 鑑定委員会の意見の要旨は

「申立人に財産上の給付として金二四、一九六、〇〇〇円を支払わせ、地代を金五一、七五〇円とするのが相当である。財産上の給付額としては、期間を現契約期間より三〇年延長することを前提とし、その間の得べかりし更新料と利用の効率の増加額の合計額による。すなわち、(イ)本件土地の更地価格は3.3平方米当り金三五〇、〇〇〇円、借地権割合をその七〇%、更新料を借地権価格の一〇%とすると、得べかりし更新料の現価は金七、二〇六、〇〇〇円となる。(ロ)目的の変更により二階建の建物から地上七階地下二階建に効用が増加し、その増加率2.058を基準にして残存期間および延長期間分に対する増加額の合計は金一六、九九〇、〇〇〇円となり、給付額は(イ)と(ロ)の合計額である。」というにある。

(二) ところで、借地条件変更の裁判により、賃貸人は、借地期間の延長、建物の耐用年数の延長による朽廃時期の延期、明渡時の建物買取価格の増加により、土地の返還の期待を減じられる不利益を受ける反面、賃借人はこれに応じた利益を得るのであるから、右利害を調整するため申立人に財産上の給付を命ずべきであるが、右の利害はいずれも借地権の価格を構成する要素として考慮さるべきものであるから、給付額は条件変更前後の借地権価格の差としてとらえるのが相当である。しかして、本件借地権はその設定時において権利金等の授受のないいわゆる自然発生的借地権であるうえ、その借地の残存期間は二年余りにすぎず、現存建物も相当老朽化していることに加え、現在の土地利用の態様を考慮すると、本件借地権の現価格は、本件土地附近の借地権価格よりやや低額であつて更地価格の六五%とみるのが相当であり、他方本件条件変更の裁判にともない借地期間を本裁判確定の月の翌月から三〇年延長するのを相当とするから、本裁判により借地権は強固になり更地価格の八〇%に上昇する。そこで、申立人に対し、財産上の給付として、鑑定委員会の定める本件土地の更地価格(3.3平方米当り、金三五〇、〇〇〇円。総額金一二〇、七五〇、〇〇〇円)の一五%に相当する金一八、一一二、〇〇〇円(千以下切捨て)の支払を命ずる。

賃料は、土地利用効率の増大にともない増額するのを相当とし、従前の賃貸借の経緯を考慮に加えたうえ、鑑定委員会の意見のとおり一か月金五一、七五〇円(3.3平方米当り金一五〇円)と定める。

(三) 鑑定委員会の算定方法につき付言する。

(得べかりし更新料について)更新料を算定の基礎とすることは、更新料の支払およびその金額についての慣行の成熟度ないしその合理性に疑問があるうえ、前記のとおり借地価格の中に残存期間を考慮する以上重ねて更新料の支払を命ずる必要はない。

(利用効率の増加について)利用効率の増加は、第一次的には建物資本の生む利益であつて、それが賃貸人に不利益を与えないかぎり本裁判において調整する必要はない。(筧康生)

借地契約の内容

1 目的土地 東京都大田区池上三丁目七八番地 1140.49平方米(三四五坪)

2 当事者 賃貸人 相手方

賃借人 申立人

3 目的 木造その他の非堅固建物所有

4 期間 昭和四八年一月一日まで

5 現在の賃料 一か月金三二、七七五円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!